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「豹くん、寝ないの?」
「ん? もうそろそろ寝るよ」
 二時間前と同じことを言いながら、風巻は机に向かって本を読み続ける。テレビ番組の大半が砂嵐かカラーバーになっているような時刻だというのに、寝る気配はまだない。
 太朗が命を落とした日から、風巻はよくこうして夜遅く(いや、早朝と言った方がいいかもしれない)まで本を読み耽る。九つ眼は倒したものの、寝不足のところに新たな泥人形が来たら、と思うと、クーは気が気ではない。掌握領域は超能力ではなく、己の手足に近いものなのだから、操る人間が疲弊すれば当然力は鈍る。ミッドヴォッホもある程度は自立しているものの、的確な指示がなければ無抵抗のまま破壊されてしまうだろう。そもそも風巻自身が攻撃を避けることが出来なければ、行き着く先は――太朗と同じだ。
「豹くん」
「……うん」
 生返事をするばかりで、風巻は顔を上げようともしない。もう寝たほうがいいの、とさらに言い募ろうとして、ふと気づいた。机に上って、風巻の顔を正面から見つめる。
 いつも通りの穏やかな表情で「どうしたの、クー」と訊ねる風巻の顔には、涙の筋もなければ目が赤くなった形跡もない。それでも、クーには風巻が泣いているように見えた。
「豹くん、ごめんね」
「ん?」
 悲しむ様子がないなんて言ってごめんね。悲しくないの、なんて訊いてごめんね。こんなに悲しんでいるのに気づけなくてごめんね。
 涙をぬぐうように頬をなめると、言いたいことが伝わったのだろう、風巻は少し笑った。
「ありがとう、クー。……もう寝るよ」


Fin


20091110tue.re:u
20090304wed.w

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